top of page

プロフィール ジャーナリスト、評論家。1934年滋賀県生まれ。早稲田大学を卒業後、岩波映画制作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)などを経てフリーとなる。『朝まで生テレビ』『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系)などでテレビジャーナリズムの新境地を切り拓く。司会、出演多数。城戸又一賞受賞。『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』(講談社)など著書多数。滋賀県琵琶湖塾塾長、早稲田大学特命教授、大隈塾塾頭。

激論の最中、

田原総一朗さん

 田原総一朗さんといえば、聞くべき事は納得いくまで聞く納得いくまで引かない。どんな大物とも激論を交わす。そんなイメージを思い浮かべる人は少なくない。一体何が彼を突き動かしているのか、一体どんな人なんだろう。いきなり、大して勉強もしないで会いに行くなんて、もしかしたらこっぴどく叱られるかも知れない。戦々恐々とおののきつつも、興味と好奇心が僕を突き動かした。取材の極意、話を聞く理由、若い頃の話、そしてこれからの目標を聞いた。

15 

仄見える真実

素っ裸になること

——話を聞く事とは田原さんにとって何かを教えてください。生まれ持っての事だったんですか?

 好奇心。僕がこの歳で現役でいられるのは好奇心が強いからだと思う。なんにも人より優れたものはないけど、好奇心だけはある。

——沢山の人に会われるのも好奇心からですか?

 そう好奇心です。この人は面白いなということ。政治家もいるし、経営者もいる。今会いたいと思っている人を1人挙げるならノーベル賞を取った山中信弥さんとかね。彼にはまだ一度も会った事がないけど、人間としての魅力を引き出したい。

——ジャンルにこだわりはないのですか?

 ない。

——会って話を聞く事によって好奇心は満たされるのですか?

 満たされることは多い。

——打ち解けるためには?

 事前にその人の書いたもの、その人について書かれたものを読む。

——沢山あって、読み切れるのですか?

 10日でも20日でもかけて読めばいい。僕は2ヶ月でも3ヶ月でもかけて読むよ。調べるのにどのくらい時間がかかるかというと、人によるけど、2ヶ月も3ヶ月もかかる事もあるし1年かかる事もある。

——調べた事は記憶されるのですか?

 ノートに書く。政治家にも、毎週土曜日の朝に政治家にインタビューをします。当然会う政治家については知っていなくちゃいけない。その政治家について書かれているものがあれば10年前でも、20年前に書かれたものでも読みます。僕がどの程度知っているかのレベルでしか話は進まない。「こいつはこの程度しか知らないのか」って思われたら、その程度の話しかしてくれないから。

——話を聞く、インタビュ―をするというのはそういうものですよね。でも最初からその域に達せますか?

 調べればできるよ。特に最初はそれをやらなきゃ。僕はこれまでずっとそうやってきた。興味があれば全部調べます。

——興味を持つ基準は何ですか? 山中さんだったらノーベル賞を今取ったとか、時事的な事に関連するわけですか?

 そうだね。君に聞きたい。何で僕に会いたいと思ったの? 何で僕なの? ジャーナリストだから? いっぱいいるじゃん、そんなの。なんで僕なの? ズバリ聞く奴もいっぱいいるよ。とにかくインタビューするって言うのはね、する前にする側が裸になること。素っ裸になること。素っ裸にならないと相手は信用しませんよ。

——はい。その覚悟で臨みます。

 うん。それで? 何が聞きたいの?

——問う事、伝える事で世の中が変わる事はあるのですか?

 変わる事はあるね。例えば政治家を三人失脚させた事がある。僕は別に失脚させようと思った訳じゃない。質問したら向こうが失脚しちゃった。

——質問し伝えることによって結果的にもたらされた。

 そう。野田さんは明後日(2012年11月16日)解散するんだと言った。何で解散するんだと思う? つまり、そういう所から始まる。なぜ解散するのかなと。それで少し調べると日曜日に輿石さん[i]という幹事長と会っている。輿石さんは「衆参同時選挙がいい」と言っている。つまり来年の春頃までは解散するなと。今日(2012年11月14日)の新聞を見たら分かるけど、常任幹事会がほぼ全員解散には反対なの。何で急に解散するって言ったんだろう?

——表舞台に出てくる人の顔は分かりますが、奥の動きは見えづらいですね。

 それを知りたいというのが好奇心じゃない。謎が世の中にはいっぱいある。なぜそうなのかって調べていったら、それだけでも本が5、6冊書けるよ。

 

記者クラブは怠け者

 今新聞を持っている?

——産経新聞の電子版ならiPhoneのアプリで入っています。

 何でもいいけど。今日の産経新聞の朝刊一面にはなんて書かれている? 

——「決めさせない政治、またも」と出ています。

 ね? 「決めさせない政治、またも」ってことは解散がないってことでしょ? 今日の産経新聞は一面で解散がないって書いてあるってことだ。それが急に解散って言っている。何でじゃあ今朝の新聞は解散がないって言っているんだろう? 何で急にそれが解散になったんだろう? 

——なにかがあったんでしょうか。

 これは新聞が取材不足なの。取材していれば今日午後の党首討論で16日に解散することが分かっていたはずだから。理由だって掴めていたはず。

——記者クラブがあるのではないのですか?

 記者クラブっていうのはね、総理大臣や大臣が記者会見をする場所なの。本来なら記者クラブで記者会見を大臣か誰かがしたら、本気かどうか取材しなきゃいけない。でもどこも取材しない。どの新聞も一面は記者発表をそのまま報じているわけ。つまり怠け者のクラブなの。こんなことは日本だけ。アメリカでは記者会見は通信社が報じる。日本でいう共同通信や時事通信とか。新聞は記者会見で通信社が報じた情報を本当かどうか、本音は何か、調べるのが仕事なの。日本はそこを全くやっていない。

——なぜなんですか?

 怠け者だからですよ。今までそれで良かったから。

——歴史は繰り返すというように、それだと万が一戦争等の非常事態になった時に、政府に都合のいい情報だけが流されたりしませんか?

 そんなことはない。逆だよ。日露戦争の時だって日清戦争の時だって、それから満州事変や日中戦争の時だっていずれも戦争が始まろうとすると新聞に戦争やれって書いてあるんだよ。政府から弾圧されて書けなかったっていうのは嘘。新聞がやれって書いてたの。朝日とか、毎日とかの戦争が始まる時の新聞があるから見てみればいい。いかにみんな賛成しているかって分かるから。

——だとするとマスコミ、新聞社って何の為にあるのでしょう?

 お祭りが好きなの。その時のお祭りにどう乗るか。だから戦争が始まったら戦争賛成って言うし、原発事故が起きたら原発反対って言っている。今は反対がお祭りだから。

——中には信念を持ってやってらっしゃる方もいらっしゃるんですよね?

 いるかも知れないけど、新聞社がお祭りに乗っている時に反対の記事を書いても載らない。そしてそんな事ばかりやっていたら左遷されるね。

——あわせざるを得ない。

 そう。

 

それでも観たいと言ってくれるもの

——子どもの頃は話を聞くのが好きな子どもだったそうですね。

 好きだったよ。それから質問するのも好きだね。質問する事で、先生が困っていたね。中学校の時の先生が1人それで辞めた。

——質問したせいでですか?

 そうだよ。答えられなかったんだよ。毎日毎時間、それをやるから。

——なるほど。三つ子の魂百までと言うか、当時から先生の知識量を超えるような質問をされていたんですね。田原さんご自身も、戦中と戦後で教師の言う事が180°変わったという体験をされたそうですね。

 僕が小学校5年の時の夏休みに敗戦が決まって、先生の言っていた事が1学期までと2学期になって言った事が180°変わっていた。戦前はこの戦争は聖戦だ。世界の侵略国と戦ってアジアの国々を独立させるための正しい戦争だと言っていたの。2学期になったら、実はこの戦争は日本の侵略戦争だったって、悪い戦争だったって言うの。1学期までは東條[ii]さんとかみんな英雄だったのね。2学期になったら犯罪者だって言うの。

——そんなに一気に変わるのですか?

 だって負けたんだから。黒が白にあるいは白が黒になったんだから。

——それで「何事も自分の目で見て、自分の耳で聞いて、納得しなければ、この世は生きていけない」という信条を得られたんですね。

 まあ、強いて言うならそれが原点だと思います。

——若い頃は、映画監督[iii]をやられたり、無茶もされていたようですね。

 映画監督は37歳の時です。

——その時はなぜ作り始めたのですか? 表現を追究されたくなったのですか?

 いやいや、テレビのドキュメンタリーのディレクターをやっていたので映画を作りたいと。テレビを観るのは無料でしょ。映画館には金を出さないと入れない。お金を出して観てくれるお客さんのための映画を作りたいと思った。今も映画一本観るためには1800円くらい払わなきゃいけないでしょ? それでも観たいと思ってくれるような映画を作りたいと思ったの。

——映画監督をやってみてどうでしたか?

 向いてなかったね。あの映画がもしヒットしていたら今でもやっていたと思う。

——やはり作るとしたらドキュメンタリータッチのものになるですか?

 あの頃はそれしか出来なかったの。今ならもう少し違った映画を作るだろうけど。僕はドキュメンタリーばっかりやっていたから、ドキュメンタリー風にしか撮れなかった。例えば、男と女がキスをするとする。キスのシーンをアップで撮ろうとすると、映画は全部そうだけど、女も男も顔を板で支えて固定するわけ。固定して、口と口が触れ合うようにしておいて監督が「はい、男、舌を1センチ出そう。5ミリ出そう。また1センチ出そう。はい、女も5ミリ出して」って撮影していく。そういう撮影方法をドキュメンタリーをやっていたから知らなかった。そういう演出することないもんね。だから出来なかった。

 

納得するまで聞く

——田原流、ドキュメンタリーの作り方を教えてください。

 例えば田中角栄っていう人物がいるとする。田中角栄はどういう人物なのか。人間、田中角栄の本音、本質を捕まえようとするのがドキュメンタリーですよ。まずは田中角栄について調べる訳だ。それこそ、本も出せるくらい調べる。僕は田中角栄について本も出しているよ[iv]。読んでよ。

——読みます。

 それに田中角栄について調べた事を全部書いているよ。それから1982年に文芸春秋っていう雑誌で僕は田中角栄にインタビュ―もしたことがある。

——インタビューされてどうでしたか? 政治家というのは人柄は魅力的な人が多いと聞きますが。

 人柄は出てくるよ。4時間くらいインタビュ―やったんだから。

——録音されながらですか?

 勿論。

——原稿を作る時のコツは?

 文字起こしをして、田中角栄さんの本音が出ているなという部分を起こしていく。インタビュ―自体が4時間あるし、起こす作業も自分でやって、やっぱり丸2日はかかるね。

——そのくらいかけてやるもんだということですね。

 そんなの当たり前だよ。

——今まで一番長かった取材ってどういうものですか?

 いっぱいあるよ、そりゃ。例えば今僕はNHKの番組を作っているのよ。その関係の取材で昨日86歳の男性にインタビューしたの。多分番組で使うのは3、4分だと思う。けどそのインタビュ―に4時間かかった。本音を聞き出すためにはそのくらいかかる。

——本音を聞けたと思うまで止めない。

 うん。4時間かかった。

——本音が聞けたというのは感触で分かるんですか?

 分かりますよ、そりゃ。大川周明[v]っていう人がいる訳。5.15事件[vi]に関わっているのが大川周明って言う人でね、戦争が始まった時に塾を作ったの。会ったのが塾の生徒だった人で、当時を知る生き証人なの。最初は曖昧に答えますよ。色々聞いていく。その人が塾に入ったのは19歳で今はもう89歳だからね。

——本人でさえも覚えていないかも知れない。

 朧でしょう。段々と思い出して行く。僕は事前に大川周明についても調べているし、何で塾を作ったのかについても色んな本を読んでいて知っている。だから聞けた。そうやって詰めていく。大川さんは何のためにこの塾をやろうとしたのかという事を聞くために4時間かかった。

——田原さんの関心が政治に向かっているのは、真実、事実を知りたいからですか?

 そうですね。でも真実なんてないよ。事実はあるけど、真実なんてね、ディスカッションしている最中にちょっと仄見えるかなって感じがする。福沢諭吉もそう言っていて、僕はその通りだと思う。

——真理や観念に近いものなんですね。

 プラトンって知ってる? 哲学の話になるけど、プラトンは真理というものは観念だと言っているわけ。現実にはないと。ニーチェがどういう人なのかと言うと、それまであったソクラテス、デカルト、プラトン、カント、そういうものを全部否定した人なの。その否定の仕方はカッコいいね。否定までは良かった。ニーチェの哲学が誰を生んだと思う? ヒットラーだよ。大変なものを生んじゃったね。

——なるほど。興味を持ったものについてものすごく勉強されるんですね。

 学生時代は全くやっていなかったけど、この3年くらいで哲学の本をずいぶん読んでいる。そのうちに本を書こうと思っている。

——どんな内容になるんですか?

 分かんないよ。書いてみないと。

——「僕は本を読まない」というのを田原さんが語っていられる本[vii]を読んだことがあり、「直接聞きに行って納得をするんだ」と仰っていて、なるほどと思ったんです。でも会った人に薦められた本は必ず読むと仰っていたのが印象的でした。

 耳学というのがあるね。本を書いている人はいっぱいいるけど、本はやっぱり格好良く書こうとしたり、自分に取って嫌な事は書かない。本音を聞こうと思うと、やっぱり本を書いた本人に会わなきゃダメだね。放送で3分使うために4時間聞いたりするのはそういう事なの。

——労力は惜しまないという事ですね。

 その通り。4時間どころか、3日でも4日でも10日でも20日でも聞きますよ。

——死ぬまでやり続けたい事ってありますか?

 人と会いたい。

——会える限り会い続けたいと。

 うん。僕にはね、会いたかった人が2人いて、2人とも会えないんだけど、1人は昭和天皇。もう1人は今の天皇。宮内庁に頼んだんだけど前例がないという事で会えずにいる。普段何考えているかって聞くの面白いじゃん。特に今の天皇なんて面白いじゃない。天皇制について、あなたどう思っている? って聞きたいわけ。世の中にちょっと疑問を持って見渡せば、聞きたいことはいくらでもあるんだよ。

 

 


 

 

 

 

脚注

[i] 幹事長兼参議院議員会長:輿石東(民主党参議院議員会長)

 

[ii] 東條英機 陸軍軍人、政治家。陸軍大臣、内閣総理大臣、内務大臣、外務大臣、商工大臣、軍需大臣等を歴任。敗戦後、軍事裁判によりA級戦犯として絞首刑が言い渡され、1948年死刑が執行された。享年65歳。

 

[iii] 『あらかじめ失われた恋人たちよ』制作年1971年。脚本家清水邦夫との共同脚本、共同監督作品。脚本においては清水邦夫、監督においては田原総一郎が主となり作成した。

 

[iv] 講談社『日本の政治 田中角栄 その後』講談社『田中角栄は無罪である』

 

[v] 大川周明 思想家。日本主義、社会主義、統制経済、アジア主義を提唱した。

 

[vi] 五・一五事件 1932年に起きた大日本帝国海軍の青年将校らによる反乱事件。

 

[vii] 永江朗『話を聞く技術!』新潮社

 

取材後に、会ってくれた理由を聞いたところ「どの程度僕の事を知っているのか見てやろう思って」と笑ってくれたのが印象的だった。そのあとの「まるで知らないじゃん笑」というツッコミには勉強不足を痛感させられグウの音も出なかった。今でも一日平均5人と会っているという田原さん。彼を突き動かしているのは尽きることのない世の中に対する果てしない興味と好奇心だ。調べたうえで臆することなく人と会い、納得いくまで聞き続ける姿勢に感銘を受けた。(取材/文責 久保田佳克)

本文中の役職、肩書き、固有名詞、その他各種名称等は全て取材時のものです。

bottom of page