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大学は生きている?

            〜シロくま先生的                       大学のススメ〜

ここに、シロくま先生がいるということ

 マンデープロジェクト、リアルワークプロジェクト、ウルトラファクトリー。僕らの通う大学は、「他の芸大とは違う」という所をウリにしている。確かに、違う。確かに、すごい。だがしかし、違うことイコール良い大学なのか? 大学の名物教授シロくま先生に在学生の中西一貴と佐賀遥菜が聴きました。

金沢21世紀美術館にて

中西:はじめに、自己紹介をお願いします。

シロくま先生(以下、シロ):シロくま先生といいます。京都造形芸術大学(以下、京造)で、一年生だけが受けるマンデープロジェクトという授業の先生をやっています。それと、去年から金沢で……。金沢21世紀美術館って知ってる?

中西:名前だけは知っています。

シロ:馬鹿、行けよ。

佐賀:(笑)

シロ:金沢21世紀美術館という美術館があるんです。言っておきますけど、日本で一番人が来ている美術館ですよ。

中西:そこで、どんなことをやっているんですか?

シロ:おもに中学生を対象としたワークショップを行っています。今、中学の美術の教育って、どんどん減らされていて、さらにその質もどんどん下がっているんです。美術って、例えば電気や車みたいに、明確にすぐ役に立つものじゃないじゃないですか。水みたいに生きていく上で絶対に必要なものでもない。水が無かったら僕らは死ぬけど、美術は無くても死なない。だから美術はそこまで重要じゃない、みたいなね。人生の余白に存在するものという風に扱われがちになってる。でもそうやって扱っているのは君たちのお父さん、お母さんだよ! そこが問題だよな。それで作られた風習によって美術の教育が減らされているのを、金沢21世紀美術館が『問題だな』と感じて、そういう考え方に対してうち(京造)の美術工芸学科の学科長の椿昇さんと二人で実際に何か出来ないかと思って、ワークショップを始めたんです。

中西:そうなんですか。

シロ:美術って、絵を上手く描くとか、確かにそういうことからはじまるけど、『本当はそれだけじゃないよ?』と言いたい。美術部とか、本気でやったら運動部よりももっと大変だからね。それをわかってない人が多い。だから美術に対する考え方を変える取り組みをこれから5年がかりでやっていきます。

 

 京造とシロくま先生

中西:そういった、学校外でもさまざまな活動をされているシロくま先生ですが、今回はオープンキャンパスという事もあり、大学の話も聞かせていただきたいと思います。はじめに、シロくま先生が感じる京造の良いところ、悪いところはありますか?

シロ:ありますよ。そりゃあ。

中西:ではまず、良いところから挙げてもらってもいいですか?

シロ:良いところ?

中西:はい。なんですか?

シロ:……俺がいる!

中西:確かに良いところです! はい(笑)

シロ:え、そういうのじゃ駄目なん?

中西:いえ、そういうの素敵だと思います。

シロ:でも、ほかの人の言葉を借りて言えば、大野木先生ⅰは、『学生は宝物だぜ』みたいなこと言っていますよね。

中西:言っていますね。

シロ:しかも本当にそう思っているんじゃないかな、あの人は。

中西:ほう。

シロ:俺は結構、大野木先生と仲良いから。彼はうちの大学のナンバー2だと思ってます。その彼が、学生のことを想っていろんな取り組みを作って大学を変えようとしている、そういうところは、良いところだと思います。

中西:なるほど。ちなみにナンバー1はどなたでしょうか。

シロ:ナンバー1は大体ニューヨークにいて、あんまり大学には来てませんね。たまに入学式とかにヒョイっと来てあいさつしてまたどっか行っちゃうんだよ。

中西:そうなんですね。

シロ:いやでもやっぱり、俺がいるっていうのは大事だよな。

中西:はい(笑)

シロ:しかも、それを俺が言うってのがやっぱり良いよな。

中西:良いと思います。素敵です。……では逆に、悪いところは?

シロ:そうですね。正直に言っていい?

佐賀:お願いします。

シロ:なんかちょっとチャラい感じがするんだよね。

中西:チャラいの嫌いですか?

シロ:嫌いだね。みんなもチャラチャラした感じの大学って嫌いじゃない? 京造は有名人が教員とか、そういうのでどうしてもチャラチャラ見られてしまうんだろうね。だからそれが少し恥ずかしいかな。

中西:チャラチャラしているのは、学生が、ということじゃなくて大学全体がってことですか?

シロ:そうだな。つまりミーハーってことだな。例えば、京都精華大学はもっとこう、『精華道』があるように感じるんだよ。でも京造は正直『チャラい』と感じてしまうところがある。俺はそれがちょっと恥ずかしいんだよね。

佐賀:でも、良い意味で言えば……。

シロ:好奇心旺盛!

佐賀:そうです!

シロ:人間に例えると好奇心旺盛。それは結構ファッショナブルで、ミーハーなんだよ。でも俺は好奇心旺盛でファッショナブルだけど、ミーハーではない。

中西:なるほど。

 

  『NO DESIGN AWARD』

中西:では、そんな京造のここヤバイぞ、スゴイぞ、という学科やコースはありますか?

シロ:それはお前、俺に聞くなよ。空間演出デザイン学科の先生なんで、言わせてもらいますが、空間演出デザイン学科、ここヤバイぞ!

中西:どの辺りがヤバイんですか?

シロ:最近始まった『NO DESIGN AWARD』がヤバイ!

中西:それ、知ってます。学内にも結構大きいポスターが貼ってありましたよね。

シロ:そう、それです。『NO DESIGN AWARD』っていうのはね、デザインにNOがついている、つまり直訳すると『デザインではないアワード』です。この間グランプリが決まったんだけど、応募者数が200人とかでしたね。

中西:すごいですね。

シロ:でも、このアワードは空間演出デザイン学科の人しか応募が出来ないんです。

中西:そうなんですか。

シロ:実際は情報デザイン学科の子とかも出していたけど、俺はそういうの好きだから、『良いじゃん良いじゃん』とか言って受け付けてましたね。

中西:影では認めている、と。

シロ:そう。影では認めているけど、一応オフィシャルではその学科の人しか出せないからね。それと、グランプリはストックホルムに行けるんですよ。

中西:えええ!

シロ:1位はスウェーデンのストックホルムに、2位は台湾に行けます。そんな大規模なことを学科で開催してみんな競争するんだよ。でも、デザインじゃないアワードって意味がわからないと思うから、例として準グランプリの作品について少し話します。皆さん、カフェとか、居酒屋とかファミレスに行って喋ってる間に、割り箸の袋とかつまようじの袋とかストローの袋で、なんか作ったりしません?

中西:作りますね。

シロ:作るよね? ときどきそこに、一体これはなんなのか分からないものが置かれる。ちょっと濡らしたりとかしてさ。

佐賀:はい(笑)

シロ:ああいうのって、みんな無意識のうちにやってるよね。その無意識の中で出来た名前もないそれを『ジャパニーズ・チップ』にしようというのがその準グランプリ獲った人の提案。チップというのは欧米にある習慣で、サービスに対して1割とか0.5割ぐらいのお金をサービス料としてお店に払うんだけど、それは日本にはないでしょ?だからみんながお店で無意識に作った『ジャパニーズ・チップ』を、店員さんに対する「ありがとう」って意味なんだよ、ということにしたらどうですか。という作品だった。それが準グランプリ! それ出して、そいつは台湾へ。俺はその考え、めっちゃ良いと思った。モノは作ってないし、デザインはしていない。ただそれに、『ジャパニーズ・チップ』という名前をつけただけ。

中西:確かに、デザインじゃない。

シロ:それに俺は感動したね。「ありがとう」という気持ちが実際に形になったのって、あんまり見たことないなと思いました。

中西:では、1位は?

シロ:1位はもっと真面目だよ。いや、真面目っていうか、確かにもっと良いよ。言ってもいいけど、自分で調べてみてください。そういうのも大切だから。

 

シロくま先生の学生時代

中西:シロくま先生が学生だった頃はどんな学生だったんですか?

シロ:……友達がいなくて。

中西:そんななりだからですか?

シロ:はい、そうです。絶対そうです。

中西:あー……。

シロ:みんな見た目で決めるんですよ。「人は見た目じゃない」とか言いながら。

中西:世知辛いですね。

シロ:だから、1年のときは友達がいませんでした。それは、「こいつら本気でやってねえじゃん」って俺が思っていたからなんだけど。多分、俺が尖っていたんだと思います。だって、尖っていたら、近づきづらいでしょ?

中西:そうですね。

シロ:でも、2年になってからは友達がたくさん出来たんです。

中西:それはどうしてですか?

シロ:モノづくりの力やと思います。

中西:認められたということですか?

シロ:多分ね。俺が喋ってなくても何か面白いもの作っていたら自然と。

中西:「こいつ、面白そうやな」という感じですか。

シロ:はい。何なんだろうこいつって。そうやって興味を持ってくれた人達とは友達になれました。彼らとは今も友達ですね。よくプラネタリウムを作ったり、部屋を真っ白に塗ったりしていました。

中西:マンデーⅱ的 ですね。

シロ:そう! なんといっても、マンデーというのは椿昇さんと僕が作ったんだからさ。だから俺は、マンデーのためにこの“シロくま”の先生しているんだよ。

中西:なるほど。

シロ:でも、逆にそういうことをしていることの方が多くて、学生時代はあんまり授業に出ていませんでした。単位は取っていたんですけど。

中西:そんなに積極的ではなかったんですか?

シロ:うん、そうです。だけど、授業にはあんまり出ていないのに単位はちゃんと取って、自分のやりたい事が見つかっていったので幸せでした。そうやって、ずっとみんなでやりたい事をやっていた。それを、学科も認めてくれていたと思うし。

中西:それってすごく、いいですね。「好きにやれ」みたいな。

シロ:うん

 

良いところ+悪いところ=愛

中西:良いところがあれば悪いところもあるというのが、本当の大学ですよね。僕はそう思うんですけど。

シロ:お前、良いこと言うね。いや、本当にそう、絶対そうだよ。

中西:オープンキャンパスって良いところしか出さないじゃないですか。絶対悪いところもあるはずなのに。それをもうちょっと出していくべきだと思うんですよね。

シロ:今、めっちゃ良いこと言ったよ。俺がそれ言いたかった。俺のセリフにしたかった。

中西・佐賀:(笑)

シロ:本当に(笑)。カッコ良かったね、今の一言。でも人ってそうだよな。大体その何者でもないというような、良いところも悪いところもあんまり無いような奴はもう無視されるんだよ。

中西:つまらないですもんね。

シロ:そう、つまんない! 良いところと悪いところがあって愛せる。

中西:僕もこの大学に不満が沢山ありますもん。

シロ:正直俺もめっちゃあると思う。

中西:たまに、大学に対して本気でイラッとくるときがあります。でも、イラッとくるのは、たぶんこの大学が好きだからだと思うんです。

シロ:せやな。ちょっと期待してしまってるもんな。

中西:そうなんですよ。

シロ:期待していると、大概イラッてくるんだよ。でも期待するってことは、それを求められるだけの器を持っているってことだな。僕らは期待して、それが可能であると想像できているということだよ

中西:なんだかんだ言って、結局この大学が好きなんだと思います。

シロ:うん、今の良い感じで終わったよ。腑に落ちたでしょ? 「ああ、そうだなあ」って。これ以上、俺の話はしないでおこう。

中西:わかりました(笑) では、本日はありがとうございました。

シロ:さよならー。

 飄々としたシロくま先生の雰囲気に惹きつけられた高校生が多かったことと思う。常に面白いことを追求し、自然と周囲を引き込む力を感じさせるシロくま先生は京造の中でも大きな存在感を与える一人だ。高校生にとって大学での夢を膨らませるひとつの目標となったに違いない。(中野千秋)

 ⅰ大野木啓人(オオノギヒロト)。京都造形芸術大学の副学長。

ⅱ「マンデープロジェクト」という授業のこと。凝り固まった頭を解すような試み(ワークショップ)がたくさん行われ、本文に出てきたように、部屋を真っ白にするという内容の授業が行われたこともある。

本イベントは2012年7月28日に開催されました。

本文中の役職、肩書き、固有名詞、その他各種名称等は全て取材時のものです。

「この大学は、他の大学とは違う」って言うけれど、それって本当? 僕らの大学は、本当に生きてるの?

インタビュアー|中西一貴・佐賀遥菜

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