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教授対談

役者×役者

BetweeN

インタビュアー:山尾有司

水上竜士(京都造形芸術大学 映画学科俳優コース教員)× 平井愛子(同大学 舞台芸術学科演技•演出コース教員)

養成所と大学

——お二人はオープンキャンパスの際には、学科ごとに設けられたブースで高校生の相談を受けておられますが、そこではどういった相談が多いのでしょうか?

平井:私の所に訪れる高校生の皆さんは、「映画学科の俳優コースにしようか舞台芸術学科の演技•演出コースにしようか迷ってるんですけど」という方が非常に多いんですが、さっきちょっと裏で伺ったら映画学科の方はいらっしゃらないそうですね。

水上:うちにはあまり、そういう相談は無いんですよね。

平井:不思議ですね。

水上:不思議ですよね。これは聞いてびっくりしました。舞台の方は映画学科と迷ってるって言うわけですよね?

平井:多いですね。大概の人がそうおっしゃいますね。ちなみにそちらではどんな質問が多いんですか。

水上:うちは例えば、「俳優養成所や専門学校も考えているんですけど、芸大で俳優をちゃんと学べるんですか? 」というような質問が多いです。

平井:それに対してはどのように答えていらっしゃるんですか? 養成所に行った方が良いですよとは言えないですよね?(笑)

水上:僕もこっちに来る前は、東京の養成所で働いたりもしていました。ただ、養成所というのは非常に残酷な所だなと思ったのは確かなんですよ。養成所は大体2年制なんですけど、実は1年間で、ほとんどその人の資質というか、才能を見限るんです。例えば、売れるということが俳優にとってのある種のゴールで、そこまで行きたいという夢が皆あります。でも、その中にもダッシュをかけられる人間と、ゆっくり歩きながら最後まで行く人間とがいると思うんです。そのゆっくり歩いている人間を、もう1年目で切っちゃうわけですよ。ここで反応が悪ければそれでおしまいというような感じで、あの子はダメ、あの子は落としましょうみたいな話しをしてジャッジしていたわけです。それは非常に残酷で、勝手に人の才能を見限るようなことをやっても良いのかと思って。そういう自身の葛藤もあって、養成所で働くのは1年で辞めました。そういう意味ではこの大学は、4年間みっちり勉強することができます。それで芽が出なければある種それは才能が無いのかもしれません。東京で活躍している人たちと対等に勝負できる所まで行きたい学生には、勝負できる所まで行けるように基礎から作ってあげられる。4年間だったら勝負をかけれるなと思っているんですよ。そういう話はオープンキャンパスでもよくするんですけどね。

平井:同感です。私は高校を卒業後、大学には行かず東京の文学座という養成所に合格し入所しました。それまで演劇なんてやったことも無かったのに、ただ俳優になりたいと思って受けたんです。それまで何かをやっていて力があれば別なんでしょうけど、「養成所」というのはある意味嘘なんです。毎日がオーディションみたいで、演出家の先生が次から次へとやって来て言われた芝居をしていく。例えば、今日は日テレのプロデューサーが来ますとかそんな感じで、常に自分を試されているような、常に自分を作っていなきゃいけない毎日でした。もう既に何かが出来て、準備が出来ている人には良いかも知れませんが、そこで何か新たなことを学び、トライして失敗出来るというような時間は無い。自分を試せるような1年間ではなかったです。それを痛感しているので、もし何もやったことが無いのであれば、いきなり養成所に行くことは進めません。正直その時はとても演劇ってつまらないものだなとまで思ってしまいましたから。

 

舞台の演技と映画の演技

——オープンキャンパスに訪れる高校生の皆さんからもよく受ける質問だと思いますが、舞台での演技と映画での演技に違いはあるのでしょうか?

平井:私が思うには、演技そのものにあまり映画の演技とか舞台の演技って無いような気がします。演技そのものはどちらも基礎は同じですよね?

水上:はい、そう思います。

平井:映画学科でも舞台を結構やっていらっしゃるし、舞台芸術学科の学生でも結構映画学科の作品に出演させていただいたりもしていますし、卒業してからも大体役者さんって両方やるものなので。ここでそう言うと余計に迷ってしまうかも知れませんが、私が思うにどっちにするかというのは演技そのもので決めるのではなく、それに付随してくるものにポイントを置くと良いと思います。舞台の場合には演劇史を学んだり演劇の作品研究をする。映画の場合には映画史を勉強したり、映画についての色んなことを知識として身に付けていく。どちらに興味があるのか選んでもらうと良いんじゃないかなと思います。映画か、舞台か。知識としてどちらを多く自分が吸収していきたいのかということで選ぶのが一番良いと思っています。

水上:僕は30代で初めて映画の世界に入ったのですが、映画独特の仕組み、例えばカチンコが鳴ってから喋り始めなきゃいけないとか、幾つかの細かい技術的な決まりごとがあるのですが、そんなことも知らなかったんです。でもそれって現場でしか学んでいけないものなので、言うならば誰だってスタートはゼロからです。いつか映画をやりたいなって思うんだったら早めに学んでおいた方が良いなと思います。

平井:そうですね。私は映画そのものの演技というのは学んだことはありませんが、現場に出て皆の見様見真似でこうするんだなとか、この辺から準備したら良いんだなとか、現場でしか学べないものはあるでしょうね。舞台は舞台で決まりがあるじゃないですか。暗転の所で入って行かなきゃいけないとか、ここでこうして下さいという段取りがあったりとか、そういうことを舞台芸術学科では多く学べます。

 

演技と緊張

平井:私がアメリカに渡って何に感動したかと言うと、実はこう見えて緊張しやすいタイプなんですよ。緊張なんてする人間は役者には向かないと思っていたので、絶対そういうのは隠さなきゃいけないと思ってました。自分には才能が無いのかもと思っていたんです。でも、アメリカに行ったら一番初めの授業の時に、「みんな緊張するよね? 緊張は誰でもするからしてもいいよ」と先生が言ってくれたんです。それには物凄く救われました。「ただ、対処の仕方を覚えなきゃいけない」と言って、そこから入っていくメソッドなんです。それに感銘を受けたので、やっぱり自分が教わって感銘を受けたものは教えていきたいなと思います。

水上:メソッド的には、緊張をテンションに変えていくようなことなんですか?

平井:良いテンションに変えていくということです。ある程度の緊張がないと人前で演技なんか出来ない訳です。だからまずはそのテンションを自覚し、緊張を自覚しようという話じゃないでしょうかね。緊張ってある程度無意識なので、それを自覚するところから良い方向に持っていこうというやり方です。

水上:僕は亡くなられた原田芳雄さんと親しくさせてもらっていたんですが、お酒を飲んだ時に、「芳雄さん、僕凄い緊張しやすいタイプで、現場でも足が震えるんですよ」と言うと「馬鹿野郎。俺はお前の100倍緊張してるよ」と言われて、凄く安心したことあります。こんなに有名な俳優さんでも緊張するんだと思って。

平井:ただ、本当にガチガチのままでは表現に至らない訳であって、やっぱり名優って言われる方は、自分なりのやり方で緊張に潰されない方法を発見していってらっしゃるんです。

水上:じゃあ逆に緊張していない役者って、あんまり魅力がないのかもしれないですね。

平井:でも、何万人に一人くらい天才みたいな人がいて、例えば大竹しのぶさんがそうらしいんですが、あの人は1回も緊張したことがないみたいです。緊張って知らないそうです。

水上:それは凄いですね。

——水上先生は、舞台と映画のどちらも出演経験がおありですが、そこで緊張の違いはありますか。

水上:いや、どっちも緊張しますよ。でもね、舞台はライブなのでセリフがとんだり失敗したりすると、自分の過ちとしてすぐに分かるんですけど、映画の場合は悔しいのがダメな時はカットされちゃうんです。出演したシーンが全てカットされた経験もあります。映画はリアリズムなので普通の芝居を要求されていきますよね。だからいつも思うのは、俺頑張りすぎてないかなとか、やりすぎてないかなとか、いつもやりながら考えています。

平井:やっぱりある程度、表現を大きくしちゃいますからね。それはありますよね。

水上:映画を始めた時は、声を出す大きさが分からなかったんです。声がついつい大きくなっちゃう傾向があったので小さく喋ってたら「あの、水上さんもっと張ってもらえます?」って怒られたりして。経験を通じて学び、身につけていく。そこからのスタートでしたね。

 

是非、我がコースへ

——最後にお集りの方々にコースのアピールをしていただいて締めにしようと思います。それでは水上先生からよろしくお願いします。

水上:はい。俳優は花に例えられたりもしますが、成長するためには水をやらなきゃいけないから自分で舞台をやるんです。舞台が一番お金がかからないということもあります。ノルマを与えて皆で割れば一人何万円かくらいで興行が打てるので。そうやって自分に水を与えていく。やっぱりアピールする場が欲しいわけです。そこで、色んな映画監督や会った事も無いプロデューサーに招待状を送るんですけど、まず来てくれませんでした。世の中に出る為のプレゼンテーションを目的にやっているのに、なかなかそれが叶わなかったんです。でも、この映画学科にはもう既にそれがあるんだなと思っています。だから僕は学生たちが非常に羨ましく思います。高橋伴明監督、林海像監督、福岡芳穂監督、本学の色んな監督たちに自分の表現を見てもらえる。そこで、「あ、こいつ良いな。じゃあ次何かで使おうかな」って思ってもらえれば良いじゃないかって、僕は俳優コースの奴らにこっそり言ってるんですよ。「命懸けでやれ。下手なものを見せたらこれでもう4年間、伴明監督から何の誘いも無いぞ。林海像監督から何のオファーも無いよ。だから真剣にやれ」という話しもしています。そのような環境が映画学科にはあり、それは非常に僕が今の学生たちの羨ましく思う所です。

平井:私は自分の経験を踏まえて言うと、失敗する4年間にしてもらいたいなって思っています。失敗を恐れずにとにかく何か新しいことに踏み出す、そういう4年間にしてもらいたいです。なるべく多くのことをトライしてもらえる環境を作っていきたいです。私は十五年間アメリカにいたのですが、今教えていることは基本的にはアメリカで学んだことです。今は日本もそうなりつつあるんですが、欧米では俳優をトレーニングする時に大きな特徴として、いわゆるメソッド化されたものを使います。スポーツで考えると一番分かりやすいのですが、例えば、イチロー選手が試合だけしてるかっていうと、そんなことはありません。試合前には必ず素振りをし、基礎トレーニングをし、そしてイチローという人が出来上がってるわけです。俳優も同じことです。舞台だけ立っていてもだめで、まず舞台に立つ為の基礎トレーニングを積む必要があります。基礎というのは、初級者用という意味ではありません。どんなに一流の選手になっても素振りは毎日するように、やはり基礎的なトレーニングは継続してやらなくてはいけないものです。皆さんには自分が教わって良かったなと思うことを教えたいと思っています。

——本日はお忙しい中ありがとうございました。

水上先生(映画学科・俳優コース教員)と平井先生(舞台芸術学科・演出コース)の対談企画は受験生の疑問に答えてくれ、さらに興味深い話をしてくださった。養成所は既に何かが出来ているというのが前提のようだ。一方、大学では1段1段階段を確実に登るように基礎力をつけて一人一人が育ってていく方針のようだ。本当に大切な事はそこで何か新たなことを学び、トライして何度も失敗していってほしい。映画学科、舞台芸術学科に関わらず演技は根本は同じなので興味があるものを学んでほしいと思う。(青木美穂)
オープンキャンパスでの教授対談を企画するにあたって、高校生の皆さんの進路選択の悩みや疑問を少しでも晴らせるものにしたいと考えました。それを踏まえて本学にあるコースを見渡していたところ、「演技」という共通点を持った映画学科 俳優コースと舞台芸術学科 演技•演出コースが目に止まり、水上竜士先生と平井愛子先生に出演していただきました。ご自身の経験をもとに語られる言葉は、役者を目指す受験生であるなしに関わらずとても興味深いものでした。

本イベントは2012年7月28日に開催されました。

本文中の役職、肩書き、固有名詞、その他各種名称等は全て取材時のものです。

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