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Interview_07

木村 真由美さん

「万人に芸術を」

 京都造形芸術大学のプロジェクトセンターで働く木村真由美さん。プロジェクトとは、京都造形芸術大学で行われている、学生の積極的な活動を支援し、社会とのつながりを作る試みである。毎年、「二条城ライトアップ」、「kyoohoo」、「近代産業遺産アート再生プロジェクトまか通」など、年間で30ものプロジェクトを実施。参加者は500名にものぼり、年々その数は増え続けている。プロジェクトセンターはそのサポートを通して多くの学生を支えている。プロジェクトセンターの仕事と芸術のつながり、また芸大生に対してどのような想いを持っているのか、木村さんに聞いてみた。

 

バックグラウンド

——木村さんは図書館の司書をされていたそうですが、司書になろうと思ったきっかけは何でしょうか。

 実は、司書になろうと思った事はなかったんです。

——そうなんですか!?

 はい。でも、図書館が好きで。大学生の時、図書館の使い方を学べて、司書の資格も取得出来る講義があったのですが、もっと図書館を有意義に利用してみたくて受講していたんです。次第に上手く活用出来るようになって利用頻度がより高くなってきた頃に、大学図書館からバイトしないかと声を掛けられたのがきっかけです。

——そうだったんですか。図書館司書を目指してなられたのかと思っていました。

 私はただ図書館を上手く活用したかっただけなんですよね。でも自分自身が頻繁に利用してたからこそ、何が図書館サービスとして足りないかがよく見えたのだと思います。

——司書でありながら利用者としての意見も持ち合わせているという事ですか?

 利用者から見たらどこを改善すればスムーズになるかが分かるんですよね。先輩にも『利用者に対して自分も同じ利用者として思った事を伝えればいい』と言われてました。

——図書館をよく利用されていたという事は、本はお好きですよね?

 小説を読むというよりは資料を探す為に本を読んでいました。図書館はどんどん湧き出る自分の好奇心や疑問を調べる事ができるんです。私が学生の頃はインターネットが家庭で使えるような時代じゃなかったので、資料は本や雑誌、データベースといってもマイクロフィルムやCD-ROM。でもそういったツールで自分の知りたい情報を見つけ出す作業がなんだか探偵をやっているみたいで面白かったんですよ。

——探偵ですか。

 そう。その作業が好きでした。小さい頃は物語もよく読んでいたのですが、大学時代は理論や経済、人文・社会学系の本や記事を読むようになりました。現実問題やドキュメンタリーの方が面白いと感じてましたね。フィクションというよりはドキュメンタリーばかり読んでいました。

——物語よりも、資料の方が好きだったという事ですか?

 そうですね。昔の新聞記事などを紐解いたりする事が好きでした。なので、図書館司書になって、利用者の調べたい事を一緒に探していく作業はすごく面白かったですね。利用者からの質問は、自分が今まで全く興味を持っていなかった分野もあるので、調べ方の知識を深める事もでき、何よりも自分の好奇心も広がって楽しかったです。

——今のお仕事よりも司書のお仕事のほうを長くされていたと聞きましたが転職された理由はなんでしょうか?

 図書館司書の仕事は、利用者のカウンターでの対応だけでなく、本の選書はもちろん、分類や整理、修復、CDやDVDの資料管理、あるいは展示やイベントの企画など、裏ですべき事が沢山あるんです。それらの仕事を一つずつこなしているうちに仕事の全体像が見えてきて、全てを把握して動かせるようになってきているなと実感できたことが辞めた理由の一つですね。一緒に働いてきた先輩達がお辞めになる時に言われた『図書館がもっとこうなったら良い!』という想いを図書館の業務に反映させる事が出来たというのもありました。

——すべき事はすべて終わらせた! といった感じですか?

 そうですね。私はここまでやろうと決めていて、それを達成する事が出来ました。使命を全うし燃え尽きましたね。ここから先は、後から入ってきた後輩達が自由に新しい発想で変えて、運営していけると思えたのもあり卒業しました。その頃はもう司書に未練はなく、自分もちょっと違う一歩を踏み出したいなって新たな世界へ希望を抱いていました。

——なるほど。では、司書をやられた後にどうして芸大(京都造形芸術大学)で働こうと思われたんですか?

 ずっと同じ図書館で働いてきてしまったので、いざ司書を辞めても、その経験を踏まえつつ、新たな一歩を踏む出すためにどうしたらよいか分からなくてね。その時、京都造形芸術大学の職員募集を知りました。今度は図書館運営のみではなく、図書館から大学を支える事が出来ればいいなと思ったんです。今まで経験した資料の探し方や、図書館は活用次第でこんなにも世界が広がるんだぜ! みたいな事を学生の皆さんに伝えられれば良いなと。あと芸大ではデザイン画の参考資料として画像や写真の需要が高いのに対して、それを本の中から見つけ出す事って、実は、司書の世界でも遅れているというか、文献を探すより難しいんです。画像検索があるし簡単では? と思うかもしれないけど、ネットの情報だと皆が同じ物を見て、結局同じアイディアになって……という気がしてオリジナリティに欠けると感じるんです。だから、その学生にとっての「これ!」と思うようなものを探してあげたくて。当時、画像を探す事はもっと大変でしたが、私はそういう作業をずっとやってきて得意でしたし自信もあったので。だから芸大。難しいからあえて芸大なんです。

——では初めは、京都造形芸術大学の図書館にいらしたんですね。

 はい。5年たたないうちに今のプロジェクトセンターに異動しました。”司書として来たのに図書館じゃなくていいの?” と周りは気にしてくれたんですけど、私は全然構わなくて。逆に図書館力を発揮するチャンスが来たというか。プロジェクトセンターはまさに学生と向き合って活動する場所で、芸大生と話す機会が満載ですしね。自分の勉強になるし、興味もさらに広がるし。私も学生に刺激を与えられるような存在であれば良いなと日々思っているんですよ。更なる機会に恵まれて楽しく過ごさせてもらってます。

 

プロジェクトセンターについて

——プロジェクトセンターの具体的な仕事内容をお聞きしてもいいですか?

 大抵18時からプロジェクト活動として定例ミーティングがあるので、学生が活動し易い様に、事前に環境を整えて一緒に活動に入ります。定例ミーティング以外にも、活動する学生の対応をしています。学生をサポートする事が主な仕事ですね。あと、プロジェクトのクライアントである企業や行政の対応があります。企業や行政が学生に求めている事をきちんと見出し、それを大学の教職員がコーディネートします。授業の構成やプログラムを先生方と話し合って決定します。クライアントにとっても学生にとってもメリットになるように

——一つのプロジェクトを作るために尽力されているんですね。

 結構、力を注いでます。

——木村さんはいくつプロジェクトを担当されているんですか?

 プロジェクトとしては、今は4つですね。

——4つも! それだと1日はあっという間ですね。

 早いですね。特に、休み時間や放課後は、多くの学生が相談しにプロジェクトセンターにやってきます。その対応をしているうちに、あっという間に夜ですよ。なるべく学生とは話そうと思っているので、学生が相談に来たらそれを一番に優先しようと心がけています。

——学生を大事にされてるんですね。

 やっぱり学生の意見って大事ですよね。プロジェクト活動するなかでどう進めてよいか分からないとか、新しい発想でこういう事をやってみたいとか、学生の意見をもとにアドバイスを行います。そうそう、ゼロから企画を立ち上げてプロジェクトを進めてみたいって人がいないかなと思っているんです。そういう人が来てくれたら、できうる限りのサポートもしますよ。プロジェクトセンターが募集しているプロジェクトだけじゃなくって、自分で企画立案して、コーディネートして、メンバー増やして、営業して協賛金や補助金獲得して。自己満足でなくって、社会をより良くするために、芸術の力でどんどん活動を進められる学生が増えると良いなと思っています。

——確かに、積極的に動いた方が充実しますし、楽しいですよね。今、おっしゃった事もですが、木村さんのプロジェクトに対する想いを聞かせてください。

 例えば、最初は小さい声でしか喋れなかった学生が、プロジェクトが終わる頃には堂々と人前で、大人たちの前で話せるようになるんですよ。すごく嬉しいですね。プロジェクトを通しての成長は一人一人違います。プロジェクト活動中にたとえ失敗したと感じても、次に活動するときはここを改善すれば上手くいくって考えられるようになっていればそれで良いんです。それを見守っていきたいというのもあり、プロジェクトが終わってからも学生となるべく交流を深めようとしています。プロジェクトだけで燃え尽きてしまうっていうのはもったいないですからね。学生にはそこで学び取ったことを、自分の将来に繋げていって欲しいです。

 

芸大生に対する想い

——芸大で働かれるようになって、制作をしている学生に関わる機会は多いと思うのですがどういった想いで学生や作品に接してますか?

 私は作品を作る事はほとんどないので、技術面でいったら素人なわけだけど、それを踏まえて学生に意見を伝えたりしています。

——制作する側にとっては居て欲しい存在ですね。

 一鑑賞者として率直な意見を言って、学生の視野、考え方を広げるような人でありたいですね。専門的、技術的なことばかりでものを見てしまうと、単純な事を見落とす事もあるかもしれません。客観的な立場で、気づかせてあげられる存在になりたいですね。

——学生の中には、課題や制作等にやる気を持てない人って沢山いると思うのですが、木村さんなりのモチベーションの保ち方というのはありますか?

 まずは、一人で抱え込まずに、自分がやろうと思ってる事を周囲の人に伝える事だと思います。一人で抱え込んじゃうと仕事はそこで止まってしまいますし、人に言っておいたら自分が忘れても思い出させてくれたり、応援してくれてパワーももらえますよね。例え一人でやった方が上手く出来たとしても、それだとやっぱり視野が狭くなっちゃう。だから荒削りでもいいから、今考えてることを先輩、後輩関係なく、隙あらば周りに話す。自分一人では辛くても、一歩外に出れば誰かと繋がっていくから、そうやってコミュ二ケーションを取ることが自分自身に色んな変化をもたらしてくれると私は思います。

 

これからの目標

——では最後に木村さんのこれからの夢や目標を教えてください。

 京都造形芸術大学は居心地が良いんです。この大学は万人にアートの力で社会を変化させたいと考えていますよね。私も万人に芸術をたしなんでもらいたいという想いがあります。例えば、プロフェッショナルじゃなくても、友達がサラっと描いたイラストで和んだりするような、ちょっとした“芸術のセンス”っていうのを万人が持てるようになれば世界は穏やかになるのではないかなと思っています。

——なるほど。

 今、個人的にウクレレのワークショップを継続して行っています。ウクレレ自体は三十路超えてからやり始めたのですが、自分が思っていたよりも、手軽で気楽に楽しめるものだなと感じました。また、ウクレレを持っているけれど、弾いてないという方が意外と多い事も分かってきました。なので、一緒に弾いてみませんか、楽譜を読めなくても楽しめますよ、と呼びかけてみました。ウクレレを弾いている時って、音色が明るいせいかもしれないけれど、寂しい気持ちや怖い考えが無くなるような気がするんです。自分で弦をはじいて出す音の力で、生きるパワーを貰えるような。それを一緒に弾く事で共有できれば嬉しいなと。ちょっとした“芸術のセンス”をもつと、心が明るくなるように思います。この活動で関わる皆さんの一人でも多くの方に、それらの事を、間接的に伝えていく事が今の目標ですね。

——ありがとうごさいました!!

学生という立場からインタビューを行い感じた事は、木村さんの学生に対する期待と愛情であった。木村さんは何かの作品を作っているわけではない。しかし、一人の『表現者』であり、『芸術家』であると確かに感じた。プロジェクトを通じて積極的に学生と関わり、社会に芸術を活かす力を発揮出来るようサポートをする事で、木村さんは確かに、芸術を生み出す『芸術家』を作り上げているのだ。しかも、人との繋がりによる広い視野を持った『芸術家』である。今後、この木村さんとの出会いのように、人との関わりによる自分自身の様々な変化を大切にしていきたい。(中野千秋)

Profile

木村真由美(きむらまゆみ)

京都精華大学大学院人文学研究科修了。京都精華大学情報館で図書館員を勤める。2006年京都造形芸術大学職員として芸術文化情報センターを経て、2010年よりプロジェクトセンターにて勤務。「近代産業遺産アート再生プロジェクトまか通」「東山花灯路プロジェクト」「鳥取気高町砂像制作プロジェクト」「進々堂プロジェクト」などコーディネーターとしてたずさわる。大阪府出身。好きな言葉は「ねこまみれ」。

取材時の様子

Interview!vol.1 誌面

Interview! vol.1 誌面

本文中の役職、肩書き、固有名詞、その他各種名称等は全て取材時のものです。

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