top of page

大学は生きている!

〜大学は終着点じゃない〜

吉田大作さん

PROFILE

1976年生まれ。山口県出身。

現在、京都造形芸術大学 入学課長/表現教育推進室講師

一年間に200日以上出張し、毎年1万人の高校生・大学生と接している。

全国の受験生からは、「京都造形芸術大学ブログ編集長」と呼ばれ、講演後は1時間以上のサインの列ができる状況から、「美大受験界の神」と評される。

大学では、キャリアデザインの授業を担当。1万人以上に出会う国内外の現状や大学でのキャリア指導から得られる情報をもとに、日本の教育環境に対する様々な提言を行っている。

毎年、全国各地の高校から、「高校生や大学生の置かれている現状」「プレゼンテーションの鬼」などの進路講演の依頼を受け、高校生や教員研修、保護者向けの授業や講演を多数行っている。

インタビュアー 司空裕里

        中野千秋

「マグロのような大学」

司空:さっそく単刀直入に聞きますが、吉田さんにとって京都造形芸術大学(以下、京造)の魅力とはなんでしょうか?

吉田:例えるなら、良くも悪くもマグロみたいな大学ですね。

司空:マグロ?

吉田:はい。マグロは泳ぎ続けていないと死んでしまう。だから絶えず泳ぎ続けています。うちの大学も今の大学や社会の状況に危機感をもって絶えず動き続けているんです。よく先生たちと食事しながら夜の11時くらいまで、学生のために何ができるだろうかって話し込んだり。学生やそれを取り巻く社会のために何ができるのかって先生たちがそろって言い続けている。そんな大学は、多分全国を探してもそんなにないと思います。

中野:なるほど。

吉田:マンデイプロジェクトⅰにしてもリアルワークプロジェクトⅱにしてもウルトラファクトリーⅲにしても、日本文化演習や今年から始まった農業演習にしても、全てに共通して「今のままで良いのか」という想いから生まれているんです。

 

プロジェクトによる成長

中野:私は今このInterview!プロジェクトに参加していますが、プロジェクトの経験をした学生に対して思われる事はありますか?

吉田:二点ほどあります。人間の出すエネルギーは自分がセーブしている事が多いんです。でもセーブし続けていると、ある一定量から出なくなるんです。ですがそこで、「ここはちょっとしんどいけれど頑張ろう」と思うと、以前100%までしか出せなかった力が120%、130%と少しづつ増え続けてエネルギーの出力がアップして来るんです。そうするとしんどさが減り、ますます頑張れるようになっていく。そうやって出力が大きくなった学生は結果も残せるようになる。プロジェクトの活動も同じでしょう? やりたいけどやめておこうと思う学生と、しんどそうだけど挑戦してみようって思う学生、もうその時点で差が生まれるんです。

司空:そうなんですか。

吉田:さらにもう一点。僕は、成長するためには失敗もするべきだと思っています。大抵の場合、自分のレベルよりも高いことにチャレンジすると、失敗してしまいますよね。でも失敗を乗り越えることによって成長できるわけです。その経験が多ければ多いほど、次にチャレンジする具体的な意識が生まれてくる。今回はここを間違ったから次はそれを重要視して頑張ろうとか。それがあるかないかの違いが、最終的に表れる結果の違いになるんじゃないかなと思っています。

中野:常に成長をし続けている人が多いのですね。

吉田:そうです。

 

チャンスを逃さず、覚悟を決める

中野:様々な分野がそろう学科構成もそうですが、プロジェクトを見てもチャンスの多い大学ですよね。

吉田:ええ、充実した内容のプロジェクトが沢山あり、学生は興味のあるものを選んで参加することができます。けれど恵まれた環境に慣れすぎて、チャンスに麻痺していると思う事もあります。京造は一年中学内で様々な取り組みをやっています。やってみなよと声をかけても「また別の機会があるんで、いいです」とか「ちょっと今週は忙しいんで」と言って行動しない学生もいますが、一度目の前に来たチャンスはもう二度と来ません。だから、出来る限り目の前のチャンスを無駄にしてほしくないです。

中野:はい。

吉田:チャンスが多すぎて迷い過ぎている人もいますね。あれもこれもやりたいと手を出しすぎてしまう学生も多い。ですが、その人のキャパを超えすぎないように選んだほうが良いですね。

司空:沢山あるチャンスはどのように見極めたらいいのでしょうか?

吉田:そうですね……見極めるというより、自分で覚悟を決めて選ぶ事だと思います。良さなんてどの取り組みにもあるでしょうし、その善し悪しを考えて決めるのは大変です。僕から言えることは自分が選んだものに対して、自分で選んだのだから徹底してやるんだ! という覚悟を決める事です。最後までやり切る方が絶対に良い。あっちもこっちも気になって色々やりすぎて、ぼんやりとした経験になってしまうのは勿体無いと思います。

司空:一つの事に集中して取り組むほうが達成感が大きいのですね。

吉田:はい。一本しっかりやり切って、そこで得た物を持って次のプロジェクトに参加する。色々掛け持ちして20%の気づきを五つ集めても、それは残念ながら20%気づいた事にしかならない。一つの事を徹底して築き上げて100%の気づきを得たら、その100%得た気づきは必ず他の機会で武器になる。だからやり切る事が大事なんです。

司空:やり切る事、覚悟を決める事。難しいですよね。学生である私達って結構何にでも手を出したくなるので。

吉田:それはそれで良いんです。やりすぎてしんどくなって失敗して。そうすると、これは一気に手を広げすぎたから失敗したんだなって気づく事が出来ますよね。だからその意味では、チャンスが多いことのメリットを活かしてもらいたいなと思います。

 

「上達曲線」

司空:吉田さんは今年の受験生を見て、どう感じますか?

吉田:受験生にとって継続する事や頑張り続ける事が難しくなってきているように感じます。すぐに上達したい、一日で結果を出したいという欲求が強くなっています。

中野:確かに私も早く結果を得たくて焦ることがよくあります。

吉田:そうでしょう? でもデッサンにしても英語の勉強にしてもどう考えたって、一日やっただけで目に見えて上達することはありません。知識を得て意識が変わったら少しは変化しますが、その変化は一時的なものなので、実力をつける為にはもっと量が必要となってきます。

司空:上達するには続けることが大事なんですね。

吉田:そうです。『上達曲線』というものがあって、初めは全く変化せず、ある一定の段階に達すると少し上達する。ですがそこでしばらく留まってしまうんです。受験生の多くはこの段階で諦めてしまっています。でも、本来は諦めずにそこでやり続けていたら一気にグッと伸びる時が来る。だから、継続して量を重ねることの大切さをどうやって伝えようかということをよく考えています。大学全入時代と言われて久しいですが、今は昔ほど受験で苦労することなく、比較的簡単に大学生になれてしまいます。受験を通して得るはずだった努力や成長、達成する喜び等を知らないまま大学に入学してくる学生が増えています。受験制度の善し悪しを言うつもりはありません。ただ、なんとかしてみんなが成長していく過程で、続けることの大切さや喜びを実感出来るようになってもらいたい。そのための仕組みを作りたいなと思っています。

中野:時代の変化も伴ってしまうのですね。

吉田:今は情報量が多い時代なので、テクニックや手段を真っ先に求めてしまいがちなことが少し残念です。一つの事にじっくり取り組むという事をやってほしい。

 

夢を夢で終わらせない方法

司空:頑張りたい、自分ならもっとこう出来ると言える生徒はいいと思うんですけれど、その気持ちを押さえ込んじゃう子もいると思います。そのような、高校生にアドバイスはありますか。

吉田:周りの目を気にしない事です。自分の気持ちを素直に言えない人は、話した後に周囲から何か言われたらどうしようとか、批判されたらどうしようというのが怖くて、内に秘めてしまうんでしょうね。でも自分の夢や目標は誰かにとやかく言われることじゃないので、自分はこうしたいんだっていう事をもっと言って良いんです。批判されそうな人の前で無理に言わなくても良いと思いますし。

司空:そうですね。

吉田:今年は『ユメミル手帳』というものを作ってオープンキャンパスでも高校生に配っています。その冒頭に、自分の数年後の夢やこうなりたいと思っていることを言葉にしようって書いているんです。誰かに言わなくても良いから言葉にする事で、自分は本当はこうなりたいんだと、常に認識し続けることが出来るんです。ある脳科学者がとった統計に「夢の平均寿命」というものがあるんですけど、どれぐらいかわかりますか? 多くの人がこうなりたい、こうしたいと夢見てそれを諦めるまでの時間。

中野:……わからないです。

司空:一瞬、とか?

吉田:正解。0.2秒です。夢って思った瞬間に消えてしまうんです。夢って普段考えないような事を思っていますよね? 僕たちはどうしてもそれを現在と過去を基準に考えてしまうんです。その過去の記憶の中には嫌な事や失敗した事もいっぱいある。過去の経験がよぎって、夢を描いても「やっぱり無理かな」とマイナスに考えてしまい0.2秒で消えちゃうんです。頭の中だけで考えて、すぐに消えちゃうから夢に向かえない。だから『ユメミル手帳』では夢を言葉にさせているんです。毎日それをチェックして意識の中から消さないように。そこからさらに、そのために何をすべきかという事を考えて行動に移してもらえるように。

 

みんなにも「本気」を返してほしい

中野:以前から疑問に思っていた事なのですが、吉田さんが発するその熱意ややる気はいったいどこから来ているんですか?

吉田:そうですね。「なぜ、そんなにしんどいのにやるんですか?」とかよく言われます。でも僕はやらされてやっているのではなく、自分がやりたいからやっているというのが一番大きいです。僕の想いの勢いで高校生の目の色が変わって「頑張ろう!」と輝き出す瞬間が、僕にとっても次の元気になる。僕の言葉で頑張ってくれている姿を見ると、それだけで疲れも吹っ飛びます。自分が本気だからこそ、高校生も本気を返してくれている。僕の熱意は、まずは自分が本気で取り組んで、それを受け取ったみんなの本気を返してほしいという願いから生まれていると思います。

中野:沢山の受験生を支えてる吉田さんも、受験生から支えられている。

吉田:本当にそう感じています。受験生や学生に出会えなかったら、こんなに続けられなかったでしょうし、支えられていると思うからこそもっと支えてあげたいと思うのかも知れないです。

 

一歩踏み出して見える景色

中野:そういった存在を知ると、私ももっと前に進まなくてはと思います。

吉田:一度踏み出してやってみればいいんです。挑戦して失敗して中々上手くいかなくても、やり切った時に必ず何か気付く事はあります。僕自身、高校生の時に自分が気づきを得た瞬間があるんです。高二の夏休みに、地元の山口にある島をぐるっと回って42㎞歩くという企画があったのです。夜の10時から出発して朝の6時まで歩くという企画で、10時から12時ぐらいまでは友達と色々話しながら進めるんですけど、12時すぎた頃からは話す元気もなくなって。次第に、本当に足が棒になるくらいしんどくなってくるんです。島だから「あの岬を曲がったらきっとゴールだろう」と期待してどうにか足を進めるのですが、そこを曲がると、また同じ景色が続いている。先の見えない不安から足が止まって動けなくなった時に、後ろを振り返るんです。でも、これまで自分がどれくらい歩いてきたのかも分からないし、前を見ても残りどれくらい歩けばいいのかも分からない。そういった状況になって思ったのは、「一歩ずつ踏み出し続けるしかない」ということ。そして、歩みを一歩一歩進めていく内に、夜が明けて空が白み始めて、同じような岬を曲がったら、ついにゴールが見えてきたわけです。ゴールして、今来た道を振り返ってみると、さっきまではどれくらい歩いていたか分からなかった同じ景色なのに、今度は確かに42㎞歩いた道が自分の後ろにあると感じたんです。その事に気づいた時に、「これって人生も同じだな」と思いました。

司空:受験勉強だったり、大学での授業であったり、未来に向けて夢中で何かをやっている時も、同じように先が見えなくて、でも振り返ってみると初めて分かる事があるというような。

吉田:あるいは登山でも、気がつくとすごく高い所まで登っていて、そこで初めて素晴らしい景色が見える事に気が付くような。そういうのとまさに同じ状況だなと思いました。先があとどれくらいあるのか分からない、やってきた事がどのくらい積み重なっているのか分からない。だから、しんどくなって足を止めたくなる。でもそこを乗り越えて、一歩ずつ踏み出し続けてゴールに辿り着いた時の喜び。それがもし仮に良い結果ではなかったとしても、自分が歩んできた道は残っています。その事の大切さは伝え続けたい。

中野:その気づきを学生に体感してもらうために、京都造形芸術大学でも同じ企画をやりたいですね。できませんか!

吉田:(笑)。僕もそう思って提案してみたいのですが、また吉田が何か変な事をやろうとしてるよ、と色んな所で反対されそうだから、今はもう少し様子を見てみます。

中野:ぜひとも具現化してほしいですね。その時は私も参加したいです。

司空:では、最後に一言よろしくお願いします。

吉田:僕は本当に皆の事を応援したいと思っているので、皆には今日伝えたことの中でも、「自分が決めた事をやり遂げる覚悟」を持ってもらいたい。いつか振り返った時に、やり続けて良かったと心の底から思えるように、毎日を大切にしていってもらいたいです。

司空・中野:ありがとうございました!

吉田さんには以前からお話を伺ってみたいと思っていたのだが、公開インタビューという形でその願いが叶ったことがまず本当に嬉しい。インタビューが終わった後、目の前にいた高校生たちから“ためになった”、“頑張ろうと思った”という感想をいくつか耳にした。プラスの意識を持ち、前に進もうとしている姿勢が見て取れ、「今を伝える」という公開インタビューの意義をしかと感じた。しかし、それだけではなく、自分たちのために常に尽力し、見えないところで支えてくれている存在に気づいてくれただろうか。私は夢を現実のものとするために一歩づつでも踏み出し続けるひとでありたい。(中野千秋)

ⅰ京都造形芸術大の13学科21コースの専門性の異なる一年生全員をシャッフルしたクラスで毎週月曜日に行われる授業。Monday Project。「ベーシック・ワークショップ」という一つのワークショップ授業により、芸術を学ぶために必要な「観察や判断をする力」「創造や表現をする力」を集中的・持続的に鍛える。9月には、「京造ねぶた」を制作する。

ⅱ京都造形芸術大学の全学科、全学年の学生が参加できるプロジェクト。学科の授業や課題ではなく、企業や自治体から寄せられる「解決すべき問題」「もっと良く改善することによって、人々が幸せになれる可能性」をもった様々な「仕事」に学科・学年を超えたプロジェクトチームで挑む。

ⅲ京都造形芸術大学の全学生が利用できる造形技術支援工房。世界の第一線で活躍するクリエイターが行う実践型の『ウルトラプロジェクト』が常に行われており、他に類を見ない、特殊な取り組みを行う。

本イベントは2012年7月29日に開催されました。

本文中の役職、肩書き、固有名詞、その他各種名称等は全て取材時のものです。

bottom of page